「あれ? 矢は僕が買うんじゃないの?」
弓はお父さんたちが家を買ったお祝いに買ってくれるって言ってたけど、矢は僕が買うって事になってたよね?
なのにお父さんたちがニコラさんたちの弓と一緒に、矢が何本か入った矢筒を持ってお店の人にいくらですか? って聞いたもんだから、僕、すっごくびっくりしたんだ。
「ああ、それはこの子たちが冒険者に復帰して、狩りを始めた時の話だよ」
ニコラさんたちが冒険者に戻って森に狩りに行くと、その時獲ってきたものは全部僕のものになるって事になってるでしょ?
だから狩りの時に使う矢は僕が買わなきゃダメなんだけど、これは練習用の矢だからお父さんたちが買ってくれるんだって。
「それにこの矢はね、狩りに使う物ではなく練習のための特殊な矢だから、お祝いの中に入れてね」
「練習用の矢? それってなんか違うの?」
「そうよ。この矢は特別な木で作ってあるから、的に当たっても折れる事はまずないの」
練習の時に使う時はね、的に刺さった矢を抜いて何度か使うそうなんだよ。
でも普通の矢だと、当たった時に折れちゃうかもしれないでしょ?
だから普通の矢に使うのとは違う、とっても折れにくい魔木で練習用の矢は作ってあるんだってさ。
「まぁ、その分値段も普通の矢に比べてかなり高いんだけどね」
「だが、普通の矢で練習するよりはかなり安くつくんだぞ」
弓ってかなり練習しないと的に当たるようにならないから、普通の矢を使って練習してるとすっごくお金がかかっちゃうんだよってお父さんは言うんだ。
でもね、冒険者になりたての人はこんな高い矢、買えないでしょ?
だからこの矢を買ってくれたり貸してくれたりする先生役の人がいないとあんまり練習できないから、いつまでたってもうまくならないんだってさ。
「お母さんも貸してもらってたの?」
「ええ。私も冒険者を始めたばかりの頃は同じパーティーで弓を使ってる先輩に、この折れにくい矢を貸してもらって練習していたのよ」
懐かしいなぁって言いながら、ほっぺたに手を当てるお母さん。
そっかぁ、だからお母さんたちはニコラさんたちにもこの矢を買ってあげようって思ったんだね。
お会計が終わったから、僕たちは冒険者ギルドに戻る事にしたんだよ。
「ルルモアさん、ただいま。帰って来たよぉ!」
でね、ギルドに着いた僕は、受付にいたルルモアさんにただいまってご挨拶したんだ。
そしたらにっこり笑って、お帰りなさいって。
「お帰りなさい。それじゃあ、練習場を開けに行きましょうね」
ルルモアさんはそう言うとね、カウンターの奥にある壁にかけてある何個かのカギからそのうちの一個を取って、僕たちと一緒に冒険者ギルドの裏にある広場に来てくれたんだ。
広場に行くと、そのふちっこにちょっと大きくて細長い建物があったんだ。
ルルモアさんはその建物に近づいて行くとね、入り口の観音開きのおっきな扉についてたカギをがちゃって開けたんだよ。
でね、その扉を開けて中を見た途端、
「う〜ん、しばらく使ってなかったから、やっぱり少し、いやかなりほこりっぽいわね」
ルルモアさんがそんな事言うもんだから、僕はどんなになってるのかなぁって思ってのぞき込んでみたんだ。
そしたらさ、窓を開けてないから暗いかなぁって思ってたのに、中が意外に明るくってびっくり。
外から見た時は気が付かなかったけど、どうやら壁の上の方がみんな金属の網みたいになってて、そこから光が入ってきてるみたい。
でもそのおかげで、中にある机や椅子、それに壁についてる棚や的なんかにいっぱいほこりが積もってるのが、入口から覗いてる僕にも解るくらいだったんだ。
「ほんと、ほこりがいっぱいだぁ」
「ええ、そうね。これはやっぱり、魔道具を使用しないと使えそうにないわね」
ルルモアさんはそう言うとね、ドアの横についてた陶器のツボみたいなのの蓋を取って、中に魔道リキッドを入れたんだよ。
「それじゃあ掃除用の魔道具を起動するから、ルディーン金はちょっと下がっててね」
でね、僕に扉から離れてねって言うとそのツボの横についてたスイッチを入れて、ルルモアさんも入口からちょっと離れたんだ。
それを見ながら僕は、練習用のお部屋のきれいにするんだったらきっと、この魔道具はクリーンの魔法でお掃除するんだろうなぁって思ってたんだよ。
でもね、
ザブ〜ン。
魔道具が動き出したらすぐに入口の上の方から奥に向かってすっごい量のお水が出てきて、練習するお部屋の中を全部洗い流しちゃったもんだから、僕だけじゃなくお父さんとお母さん、それにお兄ちゃんやお姉ちゃんたちもみんなすっごくびっくりしたんだ。
「すごい、すごい! お母さん、お水がいっぱい出て来たよ」
「ええ、本当ね。でも練習場をこんなに水浸しにして、大丈夫なのかしら?」
キャリーナ姉ちゃんは特にびっくりしたみたいで、お母さんにすごいねって大騒ぎ。
でもお母さんは魔道具からお水がいっぱい出てきた事より、そのお水で練習するお部屋が水浸しになった事を心配してるみたいなんだよね。
だから僕、そんなお母さんに大丈夫だよって教えてあげる事にしたんだ。
「大丈夫だよ。だってあれ、魔法のお水だもん」
「あら、ルディーン。魔法の水だと、濡れても大丈夫なの?」
「うん、ほら見てて」
僕がそう言って練習するお部屋の中を指さすとね、お母さんとキャリーナ姉ちゃんはつられてそっちを見たんだよ。
そしたら、さっきまでびしょびしょで天井からお水がぴちょんぴちょんたれてたのに、お部屋の入口の方から順番にそれが全部すぅーって乾いて行っちゃったもんだからみんなびっくり。
「ほんとだ! ルディーン、魔法のお水ってすごいね」
「うん。あんだけいっぱいあったお水が全部消えちゃうなんて、ほんとすごいね」」
このウォッシュって魔法はね、すっごくいっぱいのお水で汚れを押し流しちゃう魔法なんだよ。
でももしそのお水が残ってたら、後で拭かないとダメでしょ?
だから飲み水を出すドリンクウォーターの魔法と違って、攻撃魔法で出てくるお水みたいに洗い終わったら消えちゃうんだ。
「でも、何でこの魔法なんだろう?」
この魔法、さっきも言った通りすっごくいっぱいのお水で汚れを洗い流しちゃう魔法でしょ?
だから石で作ってある像とか神殿を洗うんだったら便利だと思うんだけど、ここは気でできた練習する場所だもん。
それに机や椅子は固定しとかないとそのお水で流されちゃうから、こういうとこに使う魔道具ならウォッシュよりもクリーンの方がいいと思うんだよね。
そう思った僕は、ルルモアさんに何で? って聞いてみる事にしたんだ。
「ねぇ、ルルモアさん。何でこの魔法でお掃除するの?」
「えっ? それはほこりで汚れてたから……」
「そうじゃなくて、何でクリーンじゃなくってウォッシュの魔法なの?」
僕がそう言うとね、ルルモアさんはちょっとぽかんってお顔になって聞き返してきたんだ。
「えっと、クリーンって体を綺麗にする魔法よね? あれじゃあ、部屋全体を綺麗にするなんてできないんじゃないの?」
「違うよ。クリーンの魔法は、きれいにしたいところきれいにする魔法だもん」
ルルモアさんの言う通り、クリーンの魔法を使えば自分の体を綺麗にすることもできるんだよ?
でも範囲を指定すればその中を全部きれいにできるから、お部屋を綺麗にする事だってできるはずなんだよね。
「ちょっと待って、ルディーン君。それって本当なの?」
「うん。あっ、でもすっごく広いとこを綺麗にしようと思ったらいっぱい魔力がいるから、この魔道具をつけた人はクリーンじゃなくってウォッシュの魔法にしたのかも?」
そう言えばクリーンの魔法って、きれいにする範囲が広いほど使うMPは増えるはずなんだよね。
この弓を練習するお部屋、すっごく広いもん。
だから僕、魔道リキッドをあんまり使わなくってもいいようにウォッシュの魔道後を使ってるんだろうなぁって、一人でうんうん頷いてたんだ。
そしたらね、
「ちょっと、ルディーン君。その話を詳しく聞きたいから、いっしょに来て」
ルルモアさんがすっごいお顔で、僕にいっしょに来てって。
「カールフェルトさん、ルディーン君をちょっとお借りしてもいいですか?」
それにね、お父さんたちにも僕を連れてっていい? って聞いたもんだから、お母さんはびっくり。
「ええ、いいですけど……どうかしたんですか?」
「はい。今まで私たちが常識だと思っていたことが間違っていた可能性が出て来たので、その検証をしなければならないのです」
それを聞いたお母さんは、さっきよりももっとびっくりしたみたい。
そんなお母さんにルルモアさんはペコンって頭を下げてから、
「それではルディーン君をお借りしますね」
って言って、僕の手を引いて冒険者ギルドに帰ってったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
ルディーン君の魔法知識は、前世で遊んでいたドラゴン&マジック・オンラインのものです。
なので何の検証をする必要もなく、説明文さえ読めばその効果をすべて知る事ができるんですよね。
ではこの世界はどうかというと、魔法の呪文一つとっても一から調べないと解らないのですから、その正しい効果なんて相当検証しなければ解りません。
だから今まででも、クラッシュやドライの魔法をルディーン君が一般的に知られているんとは違った使い方をしているのを見てロルフさんが驚いたんですよね。
そして今回はそれがルルモアさんに降りかかったとw